A助け
こー見えても一応武道家の端くれ。カツアゲをするヤツなんて一番嫌いな輩だ。
「先パイ達さ、カツアゲなんて先生にバレたら大変だよ?」
にこやかに言う。
「なんだオメ…」
ヒュン──
「ぐぉ!!」
一人が言い終わる前に動いた。
直後ソイツは地に伏せる。
俺の足はソイツの首の付け根を確実に捕らえていた。まぁ、いつ蹴られたかも自覚出来なかっただろうけど。
「な、なんだよお前!?」
残りの奴等は明らかに動揺する。
どうやら今のがリーダー格だったらしい。
「まだやる?」
俺は片足を掲げたまま聞いた。
「う…テメー、覚えてろよ!」
いつの時代の悪役か、ソイツ等は床で寝てる一人を担いで、消えて行った。
屋上には俺と哲太だけが残る。
「…じゃあ、俺も帰るな」
沈黙が気まずかったので、哲太を残して俺も校舎に戻ろうとした。
「…あ…!」
と、哲太が俺の服の裾を掴んだ。
「なんだ?」
「ぅ…ぁ…。」
口をぱくぱくさせる哲太。
上手く言葉が出ないみたいで、俺は仕方無く耳を哲太の口元に寄せた。
「なんだよ。」
「…ぁ…ぁりがと…。」
哲太は、蚊の鳴く様な声で言った。
哲太の声を初めて聞いた。
少しだけ高くて───。なんか、ホッとする様な声だった。
「ん…。いいよ…。」
やべっ、なんかハズい…。
「俺、行くからな。」
その日は、そそくさと早退した。
それからだ。哲太が何かと俺にくっついて回る様になったのは。
休み時間にベタベタ…。
帰る時間にベタベタ…。
「なんでくっついてくんだよ!」
俺は哲太に食って掛かったが、哲太の小犬みたいな笑顔に黙らされてしまった。
しまいにはクラスの奴等から、哲太と俺、貫太の名前を取って、哲貫(鉄火)巻きとか言われる始末だ。
哲太は相変わらず無口にも関わらず、クラスの皆からは、なんつーか、可愛がられている。
そう考えたら結構いいクラスだったのかも知れない。
俺は、どこにでも付いてくる哲太が可愛く思えてきた反面、自己嫌悪に陥っていた。
『コイツは男だろ。俺はホモじゃねぇ!』
哲太を振り返ると、でっけぇ目で、俺を不思議そうに見上げている。
ドキドキと心臓が早くなった。
『ち、くしょー!』
俺は、そんな自分が許せなくて、このままじゃ本気で…。
だから哲太を突き離そうと、決めた。
「おい、お前さ…。」
「?」
首を傾げる哲太に良心はズキズキと痛んだが、俺は心を鬼にする。
「あんましくっついて来ないでくれよ。迷惑だからさ…。」
なるべく柔らかく言ったつもりだ。
振り向き、このまま帰ろうと思った。
「……ぁ…ぅ!」
哲太は訳が分からなかったのか、追っかけてくる。
ヒュン──
俺は、足の裏を哲太の顔に突きつけた。
「言っただろ?来んな。」
一瞬だけ見せた、泣きそうな程の悲しさを落とした哲太の顔。
哲太は、走って廊下を戻って行った。
「ごめん…哲太、ごめんな…。でも、こうでもしなきゃ、俺おかしくなりそうだったんだ…ごめん!」
俺は、そう呟き、心は沈んだまま家へと向かった。