神社の周囲に幟を建てるため、隼と翔と共に作業していたのだが、吉川さんが御神酒などの買い出しをして下さる事となり、どちらか手を貸して欲しいとのことだった。
気まずさもあり翔にお願いしようかと思ったのだが、その空気を察してか、吉川さんは「隼くん、一緒に行こう。」と隼を連れて行ってしまった。
たかが旗を立てる…と思われるかも知れないが、なかなかの力仕事で、息を合わせないと難しい作業だ。
私は翔に指示を出すため何度も声をかけるが、翔からは「はい…」と薄い反応しか帰ってこない。
しかし作業はというと、無言だが力一杯でとても丁寧にこなしてくれる。
頼りにはなるが、少し贅沢な望みを言うならば、もう少し和気藹々と仕事をしたいなと思った。
本殿周囲のみならず、近くに掛かる橋や裏山の中腹など、全ての幟を建て終えたので、母屋に帰りお茶と頂き物のどじょうすくい饅頭とお茶でブレイクしようと翔を誘った。
同じ机に向かいあって座るが、翔は身体をTVの方に向け、やはり翔は無言でお茶飲み、饅頭を頬張る。
『今日は幟を建てるのに翔がいてくれて助かったよ。
実際、作業は丁寧だし、なんなら隼より力持ちだし、翔がいてくれて嬉しかったよ。』
ぼふっとお茶を咽せ込み、ゲホゲホと何度か咳き込んだ後、顔だけこちらを向け、わずがに会釈をしながら恥ずかしそうに「ウスッ」とだけ残してまたTVの方を見た。
その姿が可愛らしく思い、頭を鷲掴みでクシャクシャとすると、頭をずらしながら手で払いのけられた。
吉川さんと隼が戻って来た。
隼が荷が沢山あることを伝えると、翔は何も言わなくても荷下ろしを手伝い始めた。
吉川さんが帰った後、隼はどじょうすくい饅頭に気がつき、
「2人だけでズルいですよ。僕も仲間に入れて下さい。」
と言うと、「いや仲間とか、そんなんないし。」とごにょごにょと呟いている。
隼「はやとさんを困らせたりしなかっただろうな?」
翔「そんな事ないです。」
隼「ほんまかぁ?」
翔「ほんまです。」
隼が私の方を見て「ほんまですかー?」と聞いてきたので
『本当だよ。力持ちだし、隼より頼りになったかもねー。」と言うと
隼「どうせ僕はガリガリですから、すいませんね。」と冗談めかして言ってきた。
『隼の良い所は負けん気の強さだろ。』
そう言うと隼は「ありがとうございます」と笑顔をくれた。
翔は下を向いて顔をやや赤らげていた。