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さよならの向こう側には…【涙の受験編、中編】6〜9
 長編編集部φ(..)  - 07/6/27(水) 22:55 -
弘「呼んでも誰も来な……」
5時頃になると聞いていたコウがそこにいた。ドアを開けたコウはそこまで言ったところで唖然とした様子で立ち尽くしていた。
3人が3人とも固まってしまい、一瞬なのかしばらくの間なのか、よく覚えていないが誰も身動きすらしなかった。
おそらく俺が最初にカズヤから離れたと思う。それを合図になんとなくみんな動き始める。
コウは帰ってしまうかと思ったが、気マズそうにしていたものの部屋の中に入ってきてコタツに座った。
弘「うー、寒かったー」
それが第一声だったが、それ以降何を話して言いのかわからない様子でしばらく無言でいた。それでも性格上、やっぱり最初に話し出すのはコウだ。
弘「最近仲良くなって良かったと思ってたけど、こんな風に仲良くなってたのか?」
棘もないが明るくもない、普通に話している感じには聞こえるが…。
俺はカズヤを見たが、到底ここでカズヤが何か言うとも思えなかったので俺が話す事にする。
俺「俺がやってみようって言ったんだよ」
カズヤが俺を見たが知らないフリをした。
俺「ちょっと興味半分ていうか、そんなノリで」
言い逃れしてる様で墓穴を掘ってる感じもする。
弘「ノリはないだろーに。普通じゃできないはずじゃん。それでカズヤもOKしたのか?」
そう言ってカズヤを見た。カズヤが言葉を発する前に俺が答えた。
俺「俺が強引にお願いしたんだよ。カズヤは嫌がっていたけど力づくでね」
弘「嘘だろー。おまえらの力関係ってそんな感じ?どう見てもカズヤの方が力があるだろ」
俺「今回はそうゆう力関係だったんだよ」
苦しい言い訳だ。
弘「なんだかよくわかんねぇ」
この言葉を最後にまたしばらく沈黙が流れる。知らない間にDVDも終わっていたので余計静かだ。コウを見てもカズヤを見ても、それぞれが頭の中で一所懸命整理しようとしているかのように難しい顔をしている。
ただこんな時に無言でいるのは辛い。何か話をしていた方が少しでも楽だ。
俺「コウは家でなんかしてるんじゃなかったの?ずいぶん早かったね」
弘「待たせちゃ悪いと思ったから途中で切り上げて来たんだよ。また戻ってから手伝いだよ」
俺「そっか。じゃ早く始めようか」
ちょうどいい流れになった。今日は遊び目的じゃなくて別の用事があって集まったんだ。ずっと黙っていたカズヤも動き出し模試の話に移った。
しばらくはそれに集中する。
俺『このまま永遠に模試の解答が終わらなければいいのに…』
俺は頭の中でそう思っていた。終わってからの事を想像するのが少し怖い。
しばらくして一旦休憩する事になった。
コウはトイレに、カズヤは何か食べ物を探しに部屋を出て行った。
しばらくして2人同じくらいに戻って来る。
俺「コウはクリスマスはどうするの?」
俺から話をスタートさせる。
弘「別にないよ。家の手伝いかな。シュウは?」
俺「いつものメンバーで遊ぶ約束だよ」
カズヤも聞いている。カズヤには俺とヒカルが会うと思われているかもしれない。
俺「ユタカは今日はなんで来ないの?」
弘「家族でどこか行ったみたいだな。カズヤはクリスマスはどうすんの?」
和「部活だよ」
弘「でた!スポーツバカだ。そんな日くらいは休みにすればいいだろ。他の部員が可哀想だよ」
和「何しようが勝手だろ」
いつもの口調で答える。スポーツバカって言葉が出てきたことで場が少し和んだ。
弘「まぁ、新任のキャプテン様が休まないんじゃ仕方なくみんな従うしかないな」
和「一応クリスマスは自由参加だよ」
弘「ならいいよな。部活に出たのがキャプテン一人にならない事を祈ってるよ」
コウ特有のキツイ冗談だ。でも決して悪びれて聞こえないので怒るところまではいかない。
弘「ところでさ、去年のクリスマスだけど…」
そこから俺とコウの間で去年のクリスマスの出来事の話になり、2人で大笑いしながらしばらく盛り上がっていた。
10分くらい経っただろうか、笑いの最中にカズヤの声が聞こえたような気がした。
和「さっきの…だけど…れが…たんだよ」
2人の笑い声にかき消されていて何を言っているかはっきりと聞きとれなかった。
弘「えっ?なに?」
コウが笑ったままカズヤの方に顔を向けて尋ねた。


和「さっきの話だけど、やろうって言ったのはシュウじゃなくて俺なんだよ」
今度ははっきりと聞き取れた。ただし今は聞きたくなかった言葉でもある。
コウと話が盛り上がったまま忘れてしまえば良いと思っていたが、一気にまた現実の世界に引き戻された感じだ。コウも同じ様に考えていたのかもしれない。
和「俺がお願いしたんだよ。俺がやりたかったから」
いきなり言われてコウも面食らった様だ。
弘「わっ、分かったから。もういいよ」
和「いや、良くないね。誤解を受けたらシュウに悪いだろ」
カズヤは動じていない様だ。コウにはっきりとした言葉で言った。
その一言にコウも返す。
弘「カズヤがやりたかったって事はどういう意味だ?」
和「言葉通りだよ」
弘「じゃこれからどうするつもりなんだよ」
和「どうだろな。それは俺だけの事じゃないから」
その言葉で2人が俺の顔を見る。
俺「そんなに俺を見られても困るよ」
3人が交互にお互いの顔を見て気持ちを探りあっている様だ。俺は多少動揺していたが、冷静さを装わなければならなかった。
俺「いいじゃん、ちょっと悪フザケしたかっただけって事でさ。今日だけなんだし、ね?」
弘「まぁそう言う事ならそれでいいでしょ」
こういう感じで丸く収まってしまえばそれで良いと思う。
俺「とりあえず勉強を終えちゃおうよ」
ようやく勉強を始め出した。
1時間くらいで何とか最後まで終わり、反省会となった。
模試の成績はこれからの進路の重要な判断材料にされるので一喜一憂だ。
弘「相変わらずカズヤは成績いいね〜」
和「2人だってそんなに悪くないだろ」
弘「そうだな。でももう少し頑張らないと。お2人さんとも今日見たいな事をしてて成績落ちたら、みんなにチクってやるからな」
これもコウの冗談だ。
俺『今はシャレになってないよ』
俺はため息をついた。
弘「俺もう帰らないと」
そう言ってコウは立ち上がる。
弘「ちょっとビックリしたけど、今日の事はとりあえず黙っておくよ。気にするな」
俺「うん。じゃまた学校で」
和「またな」
弘「じゃな」
コウは帰っていった。またこの部屋で2人だけになる。
俺「俺もそろそろ帰ろうかな」
和「今日は泊まっていけよ」
俺「う〜ん、またコウに何言われるかわからないから」
和「そんなに気にするのか?それとも俺じゃ嫌だっていう事なのか?」
カズヤの一言がキツく心に突き刺さった。


俺「別にカズヤだからってわけじゃないよ。今日コウとの事もあったし、ヒカルだってさぁ…」
プレッシャーをかけたつもりではなかったが、ヒカルの名前を出していた。実際にカズヤの家を出たらヒカルにメールする事になっているわけで…。
和「コウには本当の事を話しても良かったんだけどな。それからヒカルには俺の家に泊まるって言えよ。嘘をつく必要はないさ」
俺『そりゃそうだけど…』
嘘をつかなきゃ何をしても良いってものでもない。
俺「やっぱり今日は帰るよ。色々あったからさ」
カズヤは諦めきれない顔をしていたのでちょっと可哀想な感じに思えてきた。
俺「じゃ今度この家に誰もいない時に泊まりにくるから。それでいい?」
和「ホントか?ならわかった。今日は我慢するよ」
ひとまずホッとして時計を見る。
俺「まだバスがくるまで時間があるから、少し話でもしよ?」
和「うん」
俺「それにしてもコウが来た時、心臓が止まるかと思ったよ」
和「全くだな。俺なんて学校辞めるしかないとか、そうすると部活できなくなるとか、そんな事まで頭を横切ったよ」
お互い顔を見合わせて苦笑する。もちろんコウの事は信頼してるが、今後どうなっていくかわからないし、心から笑う事なんてできなかった。
和「なんで俺にキスしてくれたんだ?」
カズヤは唐突に聞いてきた。この質問はカズヤにしてみれば一番聞きたいところなのだろう。
俺もその時の気持ちを少し考えてみる。
俺「どうしてだろうね。でもカズヤとの事は大事にしたいって思ってるからだと思うよ」
和「それってヒカルよりも先に知り合ってたらうまくいってたって事か?」
俺「それは今話しても仕方のない事だから答えない事にしておくよ。でもホントごめんね、俺が優柔不断なせいでカズヤを振り回してるような気がする。それに今日コウに見られた事で人格まで疑われるかも知れないのに」
和「自分の事は自分で責任持つさ」
そう言った後のカズヤは、今までに見せた事もない様な切ない顔をしていた。
カズヤに声を掛け難かったのでしばらく黙っている。
俺「じゃそろそろ行くよ。送らなくていいから」
和「大丈夫か」
俺「平気だよ」
こうしてカズヤの家を出た。


和「シュウ!忘れ物だよ!」
二階の部屋の窓から、カズヤの呼ぶ声が聞こえて振り返った。
俺が被ってきた帽子を振り合図している。二階から投げてもらい受け取った。
俺「サンキュー」
カズヤに手を振りバス停に向かうと、ちょうど良い時間にバスが来た。相変わらず空いているバスに乗り込み家に向かう。
乗ってすぐにヒカルにメールを送る事にした。
俺『今から帰るから』
予想外にメールが返ってきたのは家に着いてからだった。
光『おぅ!クリスマスは楽しもうな!ホテル探してて返事をするのに遅くなっちまったよ。でもいいホテルが見つかったから』
俺『わかったよ!楽しみにしてるから』
そうメールして終わる。

夜寝る前に久々に考え事をしていた。
『今日はホントに驚いた。まさかコウに見られるなんて考えもしなかった』
『コウはどう思ったのかな。おそらくあんなシーンを見たのはコウの人生でも初めてだったはずだ。かなり驚いたに違いない』
『でもコウだって俺の家で同じ様な事をしたはずだ。それでもコウがみんなに言いふらすなんて事があるだろうか?それとも脅されたりするのか?』
『俺がカズヤにしてる事はヒカルを騙している事になるのかな…。ただカズヤを大事にしたいって事に変わりはない。カズヤってハニカミ屋だったり素直になれなかったりするけど、実際にはしっかりとした信念や男らしさを持っている。だから今まで何をされても俺が心から怒った事はない。カズヤの真意が分かっているからだ』
『でも今はヒカルが好きなんだよ。ヒカルとのつきあいに何の不服があるっていうの?今は幸せいっぱいのはずだ』
『ヒカルと仲良くすればカズヤを傷つける。カズヤと一緒にいる事でヒカルを欺く。じゃどうすればいいんだよ』
『やっぱり俺がサイテーなんだ…。一向に整理できないまま2人と仲良くすればするほど深みに落ちて行く様だ。すべてを失ってしまう終末へのカウントダウンを刻んでいくみたいだよ』
『どうすればいいのさ…いくら考えても答えなんて出るわけがない…いったいこれからどうなっていくのさ…』
整理できないまま何度も寝返りを打つ。
布団の中は温かいけど、逆に足の先はシーツの冷たい部分を探したりしている。
『気持ちと同様に身体もはっきりしてないや…』
結局は嫌いな自分にいつも辿り着く。


引用なし

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